ブレイキンはダンススポーツの一種で、一般的にはブレイクダンスで知られています。1970年代のアメリカ・ニューヨークのサウスブロンクス地区が発祥のストリートダンスです。
当時のサウスブロンクス地区では、不良グループ同士の抗争が激しく、流血事件にも発展することから、平和的に解決する手段としてダンスバトルが流行しました。ニューヨークに住むアフリカ系・ヒスパニック系が立ち上げた文化でもあるヒップホップダンスの一環として位置づけされたことが、ブレイキンの始まりです。
ブレイクダンスを踊るBボーイとBガールズをまとめて、彼らをブレイカーと呼びました。当時のブレイカーたちが住む地区は貧しく、犯罪が多発することから積み重なるストレスの解消のために、ブレイキンを踊ることが、彼らにとってストレス発散方法の一つでした。
ブレイキンは基本的に、1対1から2対2、もしくは大人数のチーム同士が向き合いながらダンスバトルを行うことが特徴です。難易度の高いパフォーマンスや、アクロバティックを披露するなど創造性を競い合います。
ブレイキンの特徴は、他のダンススポーツにはない、音楽担当のDJと司会進行のMCがいることです。また、1970年代からほとんどルールは変わっていないので、伝統をそのまま引き継いだダンスともいえます。
日本でも、1980年代以降に映画や有名ダンサーを通じて広く知られるようになりました。2018年のブエノスアイレスユースオリンピック(アルゼンチン)で初めて、ダンススポーツ競技種目として正式採用されています。
さらに、2024年のパリオリンピックでは、ブレイキンが新競技として採用されたので、見逃せません。
ブレイキンのルーツは、アメリカ・ニューヨークのサウスブロンクス地区で生まれる前から、他国のナイジェリアの民族文化からブレイキンに類似したダンスが、すでに生まれていたとされます。ブレイキンは、エントリー・フットワーク・パワームーブ・フリーズと呼ばれる、4つの要素で構成されたダンスですが、当初から構成されていたわけではありません。
ブレイキンが流行した1970年代に、若者の間で流行していた「The Good Foot」が始まりです。ブレイキンのダンスバトルでよく流れる曲で知られています。「The Good Foot」は、その名の通り、足を使ったフリースタイルのダンスです。さらに、地面に手をつき踊る動きが追加されたことで、この踊りをフットワークスタイルと呼びました。同じ頃に、アメリカ・ニューヨークのブルックリン地区では、アップロックと呼ばれる、立ったり屈んだりするダンスが生まれています。
ブレイキンは、サウスブロンクス地区やブルックリン地区だけでなく、アメリカの各地で新しいスタイルが誕生しているので、多種多様です。1970~1980年代では、ブレイクビーツと呼ばれる曲の間奏部分で踊るブレイキンも流行しました。ブレイクビーツでは、ファンク・ジャズ・ディスコミュージックなど、ドラムやパーカッションで激しいリズムで展開される音楽が使用されています。
また、ブレイキンと結びつきが強いHIPHOPは、DJのクール・ハークの登場したことで発展しました。HIPHOP界3大DJの1人でもある、クール・ハークはブレイクビーツの盛り上がりを維持させるために、メリーゴーランドと呼ばれる、レコード2枚と2台のターンテーブルを使用したビートジャグリングを開発しました。DJをイメージするときに思い浮かぶものですね。
クールハークのビートジャグリングで曲の間奏を長く保ちながら、MCがラップをする機会を増やすことに成功しました。ダンスパーティーの盛り上がりが功を奏して、多くのダンサーやMCが集まるようになります。アメリカ各地でも、アフリカ系・ヒスパニック系以外の人種も踊るように。
1983年に公開された映画「Flashdance」のなかで披露されたブレイキンは日本を含め、世界中に衝撃が走ったことで、映画の舞台となったアメリカでは社会現象となり、Bボーイの人口が爆発的に増加するきっかけになりました。
ブレイキンとブレイクダンスは、ターム(専門用語)の違いであり、ダンスそのものは同じです。Bボーイ・Bガール・ブレイカーは、ブレイキンのダンスを学ぶ人を指します。
さらに細かく分けると以下の意味になります。
メディアを含む、ブレイキンを知らない外部の人たちが 「ブレイクダンスをしている」 と表現したことから、ブレイクダンサーとブレイクダンスというタームが広まるように。
ブレイキンを熟知している人は、正式なタームのBボーイ・Bガール・ブレイカー・ブレイキンを使用しています。この機会に覚えておきましょう。
ブレイキンの表現の場といえば、ダンスバトルです。もともとは不良グループの若者たちが、やり場のないストレスを暴力でしか発散できなかったパワーをダンスで表現したり、彼らの練習場所を取り合うために行われていました。
現代では、バトルイベントとして開催されており、音楽を流すDJや進行役のMC、審査員、そして主役のダンサーたちはフロアの左右に分かれてチーム対戦します。暗黙のルールでは、それぞれのチームが交互に踊り、相手に触れてはいけないので、注意が必要です。
ダンスバトルにおいて、DJの選曲は、結果に大きな影響を及ぼすほど重大な役割を持つので、DJの実力が試される場でもあります。また、ダンスの勝敗を決める審査員は必ず、複数人でなければりません。その理由は、1人の審査員の基準だけで評価されると不平等になり、結果が偏ってしまうためです。
ダンスバトルは、サークルバトルとショーケースと呼ばれる対戦形式があります。
クラブでDJが音楽を流す時間のDJタイムでは、審査員やMCが不在のサークルバトルが行われます。サークルバトルは、バトルイベントのようにルールで決められたバトルではなく、経験が浅いダンサーでも練習の場として活用できるバトルです。
ショーケースは、ダンサーチームが様々なジャンルの音楽の編集を行い、チーム全員でエントリーやソロパートを設けた振り付けです。
2024年のパリオリンピックの競技種目として注目を集めているブレイキンですが、ルールはどのようになるのか気になるところですよね。2018年にアルゼンチンで開催されたブエノスアイレスユースオリンピックでは、1対1 のバトル形式で、DJの音楽に合わせて即興で交互に踊りを披露し、1試合でのバトルラウンド数は 2~ 4ラウンドのルールで行いました。
パリオリンピックにおけるルールは、2021年11月時点ではまだ正式に発表されていません。世界ダンススポーツ連盟(WDSF)から発表される予定です。
ブエノスアイレスユースオリンピックのルールでは、ダンスの評価基準が以下の4つに分類されています。
減点項目は下記の通りです。
公序良俗に反することも減点対象になるので注意が必要です。審査員がタブレットを持ちながら採点を行い、集計結果が反映されます。
ブレイキンがパリオリンピック競技種目に採用された理由は、近年オリンピックへの関心が薄い、若い世代を呼び込むためです。ブレイキンは世界各地でダンス大会も開催されており、数あるダンスのなかでも、知名度と人気があります。ブレイキンは音楽さえあれば、場所を選ばずにできる手軽さも評価の一つです。
2018年にアルゼンチンで開催された、ブエノスアイレスユースオリンピックの正式な競技種目として採用され、観客の集客実績が評価されたスポーツです。ブレイキンは、人種差別や暴力は一切なく、ダンスと音楽で国境を越えた交流ができます。
世界中でブレイキンの人口は増加傾向にあり、平和を目指すHIPHOP精神と、国の経済力は関係なくできる競技であることから、オリンピックの精神に沿っていると考えられています。
ブレイキンは主に以下の4つの要素から構成されています。
一度に全ての要素を、無理やり盛り込む必要はありませんが、どの要素に重きを置くかはダンサーによって異なります。ダンサーの柔軟性やリズム感だけでなく、独自性も欠かせません。ダンサーの身体能力の高さが必要であることはもちろん大切ですが、ダンスにおいては音楽や表現、独自のキャラクターの魅せ方も求められます。
それぞれ1つずつ紹介します。
トップロックとは、立った状態で足のステップと上半身を組み合わせたダンスです。代表的な振りに、エントリー、アップロック、ブロンクスステップがありますが、ブレイキンにおいては立ち踊りを総称してトップロックと呼びます。
トップロックの時間には決まりはありませんが、8カウントの1~2セットが一般的です。立ちながら音楽に合わせるリズム感と個性をアピールするので、上手い下手はありません。
こちらの動画では、以下のトップロックの振り付けを紹介しています。
いずれも、ブレイキンにおけるトップロックの基本なので、参考にしてみてください。
フットワークは、かがんだ状態で素早く足を動かしたり、挑発したりする振り付けです。ブレイキンにおいては、BボーイやBガールがフロアの上で、両手を支えながら脚さばきを披露します。
紹介する動画では、以下のフットワークが披露されています。
こちらの動画の最初に紹介されている「一歩」は、両手で身体を支えながら、片足を伸ばして回転させる振り付けです。慣れていくと、リズムに合わせて「2歩」「3歩」とフロアに足を付ける回数ごとに難易度が上がります。
他にも、フットワークの基本的な振り付けが紹介されているので、真似しながら習得していきましょう。
パワームーブは、上半身をメインに使い、回ったり跳ねたりするアクロバティックな振り付けです。パワームーブで知られている動きでは、背中や肩で回転するウィンドミルや、頭で回転するヘッドスピンがあります。
ブレイキンをイメージすると、パワームーブの動きが多いかもしれません。難易度が高い技だけあって、振りのなかでは一番の見せ所ともいえます。
こちらの動画では、以下の振り付けを紹介しています。
いずれも、ダンス中級~上級者向けの振り付けなので、スキルアップするなら挑戦してみてください。
フリーズは、フットワークやパワームーブを音楽に合わせて身体の動きを数秒間、止める振り付けです。たいてい、ブレイキンの一連の流れのラストで用られます。
フリーズの振り付けのなかには、片手で身体を支える動きもあるので、相当な筋力が必要であることが分かります。ラストの見せ場だけあって、最後まで気が抜けません。
こちらの動画では、以下の振り付けが紹介されているので、参考にしてください。
フットワークやパワームーブからのフリーズまでの体力維持が勝負です。
今回は、ブレイキンについて紹介しましたが、2024年のパリオリンピックの競技種目に採用されたことで、今後は注目を集めるダンスになるでしょう。また、ブレイキンのバトルでは、DJが流す音楽のジャンルによって結果が左右されることもあります。
アップテンポもしくはスローテンポの曲調かどうかは、選手たちがステージに立つまでわからないので、即興で個性あふれるブレイキンを踊らなければなりません。ブレイキンは技術や独創性だけでなく、会場の盛り上げ度合いも重視される競技です。
他人の動きを真似すると減点対象になりかねないので、注意しなければなりません。総合的にダンサーを評価する公平なルールのもとで、勝敗が決まります。
ブレイキンには専属コーチが存在しないので、常に自分の長所と短所と向き合う必要があることを覚えておきましょう。