キャラクターダンスと聞くと、アニメのキャラクターが踊るダンスというイメージがあるかもしれませんが、実はバレエのなかで必要な不可欠な要素の1つです。バレエでは「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」など有名な童話を用いた演出がよく使われていますが、キャラクターダンスは観客を退屈にさせない効果があります。キャラクターダンスは物語の登場人物や世界観があるからこそ、深く理解しなければなりません。また、バレエのなかにあるものとしてではなく、多才なバレエダンサーとして成長するために必要な協調性も養われます。
キャラクターダンスはヨーロッパの民族舞踊を用いたスタイルで、ほとんどの場合、バレエのなかでは楽しくて活気のある場面で演出されることが多いようです。バレエのダンストレーニングのなかでも軽視されがちですが、実は自己表現が洗練されたパフォーマーになるための要素です。異文化のスタイルやパートナーワーク、小道具を使って踊られることもあります。バレエの世界でプロを目指すダンサーであれば、キャラクターダンスは避けては通れない課題になるでしょう。
実際にバレエで用いられているキャラクターダンスにはさまざまな種類の民族舞踊がありますが、そのなかでも代表的な踊りについて以下の3つを紹介します。
あまり耳慣れない「チャルダッシュ」は中欧諸国のハンガリーの伝統的な民族舞踊の1つで、意味は「酒場屋」になります。当時の兵士が酒場で同志を募るために踊ったことが始まりで、後に芸術的な要素も取り入られるようになりました。チャルダッシュで使われる音楽は2拍子で、多くの場合は4分の2拍子や4分の4拍子です。最初はゆっくりのテンポで始まり、終わりにかけて速いテンポになっていくのが特徴です。しかし、一時期ヨーロッパ中にあまりにも流行したのでチャルダッシュ禁止の法律まで公布されたほどの歴史があります。
チャルダッシュはカップルのための求愛ダンスなので、基本的に男女ペアで踊る民族舞踊です。一人ひとりのダンサーたちは堂々とした格好で、シンプルにステップを踏み、両足の内側で鳴らしたあとは回転する流れです。あとは単純に円形で移動したり、女性だけの回転、男女同士が離れたり近づいたりする動きもあります。東欧諸国では社交ダンスにチャルダッシュの要素を入れて踊られているようです。また、チャルダッシュはハンガリー系の人が住む地域で踊られているため、ルーマニアでも見かけられるようです。さらに地方によってはダンサーたちが身に付ける衣装のデザインに違いやスタイルも異なります。
マズルカはポーランドの民族舞踊で、さまざまなリズムで踊られますが、多くの場合は3拍子であることが一般的です。バレエにおけるマズルカはポーランドの伝統的な民族舞踊として固定されることがなく、日々変化していくため、オリジナルを保つことが難しいとされています。マズルカの魅力は生き生きとしたステップやテンポに合わせて踊られており、熟練したダンサーが踊りのなかでアクセントを入れることで優雅さが引き立てられるところも見どころです。また、全部で55種類ものステップが存在するといわれています。
18世紀にドイツ、19世紀にはフランスとイギリスの舞踏会に取り入れられたことで広がり、上流社会で生きる人々の間で知られるようになりました。現代では、音楽家のショパンの作品によって世界中に知れ渡っています。バレエでは「コッペリア」「白鳥の湖」のなかで踊られており、男女ペアが大きな円を作り始め、テンポの良い音楽と一緒にステップを踏んでいく楽しいダンスです。バレエの経験者であればわかると思いますが、特にマズルカでは無表情で踊るのは作品と似合わないので、基本的に明るい表情で舞台に立つように意識しているでしょう。もし、見る機会があれば、ダンサーの表情に注目してみてください。
タランテラはイタリアの港町タラントが由来の民族舞踊で、8分の3拍子と8分の6拍子の非常にテンポが速い音楽に合わせて踊ります。また、クモのタランチュラに噛まれると毒を出すために踊り続けなければならないといった諸説もあり、毒の苦しさで踊り狂って死ぬことを表現したという説も存在します。しかし、陽気で活発な踊りで、かつては豊穣の祭りにも用いられていたようです。当時の南イタリアでは、クモに噛まれることでタランティズムと呼ばれる病気が広まりましたが、国民の間ではさまざまな仮説が生まれたことで、タランテラではクモの動きを真似なければならないといった迷信が出回ったようです。
タランテラはマンドリンやタンバリンの演奏に合わせて踊られ、音楽家のショパンやリストも同名の作品を作曲しています。また、タランテラでは基本的にグループやカップルで踊られることが主流の円舞曲です。最初は右回りから始まりますが、曲の区切りごとに回る方向を変えたり、テンポも速くなることが特徴です。何回か繰り返されますが、テンポを外さずについていくのが難しくなります。ネガティブな由来を持つタランテラですが、春の再来と緑の再生を象徴する意味もあるようです。
キャラクターダンスを見たことがないという人は実際に動画で見てみましょう。
先述した特徴も踏まえて見ると面白さが倍増します。
こちらはバレエのなかで披露されているチャルダッシュで「白鳥の湖」のワンシーンです。王室のなかで複数の男女が踊っており、役割が明確で分かりやすいですね。ハンガリーの民族舞踊の特徴も謙虚に現れています。たとえば、男性が身に付けている衣装で帽子とブーツがありますが、これは中世のハンガリーの上流国民が身に付けるような衣装です。また、男女ともに青色の衣装を着ていますが、これもハンガリーの伝統的な色の象徴です。
チャルダッシュの特徴である音楽のテンポが終盤に向かって速いですが、ダンサーたちはリズミカルに踊ることで楽しさ、喜びを表現しています。優雅な世界観と活気のある雰囲気を楽しめるので、見ているだけでも感動するでしょう。
マズルカはリズム感の良い音楽と男女ペアで円形になって移動する場面が見どころです。また、3拍子のテンポなので、ダンサーたちの動きと一体感のある雰囲気がクセになりそうです。ハンガリーのチャルダッシュとはまた違う活気と衣装の違いが面白いですね。その国の文化が反映されていることにも注目してみるといいでしょう。
タランテラはクモのタランチュラの毒を追い払うために踊られていた民族舞踊ですが、最初からテンポの速い音楽に合わせて男女ペアで踊るシーンから始まります。中盤ではバレリーナがタンバリンを片手に踊り始めます。後から男性ダンサーもタンバリンを持って一緒にペアダンスを披露していきます。
見てのとおり一部始終までずっと踊り続けているため、かなりハードなダンスともいわれています。相当な体力と精神力を必要とするキャラクターダンスの1つです。
本記事ではキャラクターダンスについて紹介しました。バレエのストーリーには欠かせない要素であるキャラクターダンスはプロを目指す人が通る道ともいわれています。バレエの経験者でこれからキャラクターダンスを始めるダンサーであれば、今回紹介した民族舞踊の特徴や意味について深く知る必要があるでしょう。
この機会に研究してみると面白い発見があるかもしれません。