ニュージーランドの先住民マオリ族が守ってきた民族舞踊のハカはもともと、儀式や戦闘の前に披露することで部族の強さと結束力を表現していました。
おもに男性が大地に足を踏み鳴らし、身体を叩いたり、舌を突き出したりしながらリズムに合わせて踊ります。また、声を上げて発する歌詞はマオリ族や先祖の歴史を詩にしたものが多いようです。
マオリ族の言い伝えでは、生命の祝福を意味する踊りとして始まったといわれています。夏の暑い日に熱による空気の震えは太陽神の息子・タネロレが母のために踊っているとして、現在のハカの原型ができたようです。
マオリ族は文字がない文化だったので、部族間のコミュニケーションのために身体を使った踊りが重要な役割を果たしていました。現代のハカは仲間同士で不安を取り除く効果があり、団結力や自信を奮い立たせるために踊るダンスとして知られています。
ニュージーランドではスポーツの試合前に踊るだけでなく、お祝い事や歓迎の印としてハカが披露されることも当たり前のようにあります。たとえば、結婚式や授賞式などで何かを成し遂げた人が自らの誇りをハカで表現するようです。
ちなみにハカの「HA」は息、「KA」は炎を意味するため、身体の中のエネルギーを外に放出して集中させる儀式でもあります。ニュージーランドの地域によってはスタイルが異なるハカも存在するため、1つだけではありません。ハカは単なる民族舞踊ではなく、社会的な機能を持つダンスとしての役割があります。
伝統的な民族舞踊のハカを踊る際に、ダンサーたちは必ず大声で歌詞を読みます。今回は代表的なカマテハカの歌詞の意味を紹介します。
Ka mate! Ka mate!
(私は死ぬ!私は死ぬ!)
Ka ora! Ka ora!
(私は生きる!私は生きる!)
Ka mate! Ka mate!
(私は死ぬ!私は死ぬ!)
Ka ora! Ka ora!
(私は生きる!私は生きる!)
Tenei te tangata puhuruhuru
(見よ、この勇気ある者を)
Nana nei i te tiki mai,
(ここにいる毛深い男が)
Whakawhiti te ra!
(再び太陽を輝かせる!)
A upane! ka upane!
(一歩はしごを上へ!さらに一歩上へ!)
A upane, ka upane
(そして最後の一歩、そして外へ一歩!)
Whiti te ra!
(太陽の光の中へ!)
歌詞の意味を見るだけでもパワーが伝わってきます。ニュージーランド代表のラグビーチーム「オールブラックス」がハカのパフォーマンスを披露することでも有名です。試合前には必ずカマテハカを披露してから士気を上げています。
相手に対する威嚇行為というイメージが強いですが、選手たちの団結を確かめ合うための儀式なので、試合結果を左右するパフォーマンスではありません。
先述したとおりハカは戦いの前の心構えの儀式として、民族同士の団結力や士気を高める民族舞踊です。昔から旅人を迎えるための儀式として行われ、現代では誕生日や冠婚葬祭でも披露されています。マオリ部族のアイデンティティの象徴として扱われており、ニュージーランドでは2年に1度開催されるフェスティバルのシンボルとしても人気です。
また、伝統的なハカを披露するためには意味を理解する必要があります。さらに、ハカには誰でも披露ができるものと、男性用、女性用があります。マオリ族出身でなくてもハカを学ぶことは可能ですが、時間をかけて表現を身に付けることが大切です。
どの文化の習慣を学ぶ時にも言えることですが、真剣に学ぼうとせずにハカを踊ることは良いとは言えません。もし、ニュージーランドで正式なハカを教わる機会があれば、敬意を払うことがマナーです。ハカはライフイベントでも披露されていることから、踊る側も見る側も常に経緯を払うことが重要とされています。
ハカは人生において重要な場面やお祝い事でしばしば披露されており、マオリ文化の中では男女問わずに社会的な機能を果たす役割がありました。
日本とは異なる文化なので、ハカに対してエネルギッシュなイメージや冠婚葬祭で披露されていることに違和感を感じるかもしれません。もし、ニュージーランドに行く機会があれば、ハカを目の前で見てみるといいでしょう。ハカの文化を大切にしている理由を肌で感じることができます。
実際にハカが踊られる場面について詳しく紹介していきます。
ハカはスポーツの試合前に、対戦相手を威嚇するという場面が多く見られます。特にラグビーの試合前に代表チームのオールブラックスが披露するハカは有名です。
オールブラックスでお馴染みのハカ「カ・マテ」は、マオリ族長によって作られた踊りです。オールブラックスの名物として披露されたことがきっかけで世界中でも知られるようになりました。
また、ニュージーランドの女子ラグビーチームもハカを踊ることから、自分たちの文化的なルーツと伝統の尊さを確かめているといわれています。しかし、現代のハカは対戦相手に対する敬意に重きを置いているため、昔とは意味合いが異なります。
時にはチームの力を誇示するためのパフォーマンスとして披露するので、対戦相手への威嚇がないといえば嘘になるかもしれません。ハカを見る側の受け止め方次第で意見の違いもあるでしょう。
伝統的な文化の象徴であれば、日本の結婚式でも披露されることは珍しくはありません。結婚式におけるハカには人生で需要な節目を迎えるカップルとゲストへの敬意が込められています。
男性だけでなく、女性もハカを披露することもあり、新婦やゲストも一緒に参加する場合も多いようです。そもそもハカは相手を威嚇するための儀式のはずなのに、なぜ結婚式で踊るのかと思う人も少なくはありません
結婚式で踊るハカはお祝いを意味するため、場面によって意味が異なります。結婚する夫婦への敬意、もしくは節目としての意味合いが強いといわれています。ハカは人が集まる時の団結の象徴としても踊られるようです。
最近では、学校の卒業式や誕生日など日常生活の場面において、ハカを見る機会が増えています。
近年、マオリ族出身の若者たちの間では、現代社会の問題提起するために踊られることもあるようです。
おもにマオリ族のコミュニティ内で起きている問題をテーマに歌詞を作り、ハカの踊りと一緒に披露することで、問題を認識させながら不正をなくすように訴える内容が注目されています。
マオリ族の伝統的な象徴で訴えかけるという試みが若い世代で行われているようです。
ハカには男性限定のスタイルもありますが、女性限定のハカもあります。
マオリ族出身の人でなくてもハカを習得することは可能なので、誰でも踊ることができるハカも存在します。
現代では、女性でも子どもでもパフォーマンスができるようにさまざまなハカが作られています。性別や年齢関係なく、ハカの文化は次世代にも受け継がれていくでしょう。
こちらの動画では、ニュージーランドの代表選手オールブラックスのハカが見られます。
そのなかでも、ハカのパフォーマンス中に舌を出す選手もいますが、これにはちゃんと意味があります。相手を決して侮辱しているわけではなく、人間の機能の延長を意味しているといわれています。
他にも、腕を開いて上に振るような動作もエネルギーを送る意味もあるようです。かつては相手に恐怖心を与えるものとして伝えられていましたが、チームの連携と敬意を表現するパフォーマンスとして見る側にも感動を与えています。