タップダンスは、「タップス」と呼ばれている靴で床を踏み鳴らしながら踊るモダンダンスの一種です。「タップス」には、靴底の爪先とかかとにタップチップと呼ばれる金属板が付いているため、音が鳴る仕組みになっています。
もともとは、ヨーロッパ・アフリカからアメリカへ移住してきた移民・奴隷とされていた黒人たちの伝統的な打楽器ダンスが発祥です。また、スペインのフラメンコやアフリカ民族ダンスにも起源があるといわれています。
黒人奴隷制度が活発だった18世紀のアメリカ・サウスカロライナ州では、ドラムを鳴らしながら労働後のダンスを楽しむ黒人たちもいました。しかし、1739年にサウスカロライナ州にて暴動が起きたことにより、白人たちがドラムの使用を禁じた代わりに足を踏み鳴らし音を出していたことにも起源が見られます。
しかし、現代のようなタップシューズがない時代では、素足で踏み鳴らしながら音を出すことしかできませんでした。当時は、コインや廃材を靴底に取り付けて、いい音が出るように工夫を重ねて、タップシューズの原型が出来上がります。
それから19世紀のアメリカ・ニューヨークのスラム街では、アイルランドからの移民たちと、奴隷とされていた黒人の子孫たちのダンスバトルが活発に。ヨーロッパとアフリカのダンスが融合したことで、タップダンスが発展していきます。
1920年代にジャズ音楽が生まれたことで、その音楽に合わせて床に足を踏み鳴らす現代のタップダンスが確立。後にジャズダンスに発展することになります。
そして、20世紀にはアメリカのミュージカル映画や音楽と共に世界中に広まっていきました。代表作の一つにミュージカル映画「雨に唄えば」でも、主演を務めたジーン・ケリーのが雨の中で披露するタップダンスが印象的です。
現在では、タップダンスの多様化により、リズムタップやミュージカルタップと呼ばれるスタイルに派生しています。ちなみに、リズムタップでは曲中のビートを重視し、ステップのリズムによって音楽を作るスタイルです。また、ミュージカルタップではミュージカル映画でよく見られるように、足のタップだけでなく、体全体の動きにも重視しながら、曲に合わせて踊るスタイルなので、難易度が高いスタイルともいわれています。
タップダンスは、貧困で苦しむ人々の怒りや悲しみを発散させるために生まれた表現方法ともいわれています。他の国のダンスでいえば、アイルランドのアイリッシュダンスや、スペインのフラメンコも感情表現を元にしたダンススタイルです。ダンスの振り付けや音楽は異なっていても、社会に訴えたいことは共通しています。
タップダンスの歴史は前述のとおり、アメリカ南部の移民・奴隷とされていた人々が唯一の表現方法として踊っていたダンスから発展しました。タップダンスがエンターテインメントとして人気を集めたきっかけは、アメリカ・ハリウッドのミュージカル映画です。
銀幕の大スターとも呼ばれていたジーン・ケリーやフレッド・アステアが現れてから、エンターテインメントの主流として定着。その後は、ジャズダンスと肩を並べるようになり、現代でもエンターテインメント業界では欠かせないダンスとして知られています。
最近では、ロックや和伴奏でもタップダンスが踊られており、タップシューズを加工することで一般的な金属音以外にも、電子音を出すタップダンスも人気です。
タップダンスが起用された映画は、20世紀に発展したミュージカル映画が始まりですが、現代においてもタップダンスが映画に登場しています。
タップダンスが起用された以下の代表作を順番に紹介します。
映画・座頭市は、映画監督・俳優のビートたけしさんが主演を務め、タップダンスが起用されたことで注目されました。一般的なタップシューズではなく、下駄でタップダンスを踊るシーンが見どころです。
こちらの動画でも、スーツではなく着物姿で踊る、いわゆる「下駄タップ」に圧倒されます。和太鼓のリズムで50人くらいのキャスト全員が息を合わせ、見事なタップダンスを披露。時代劇とタップダンスの組み合わせは珍しく、日本でタップダンスの認知がさらに広まった映画です。
映画・TAP THE LAST SHOWは、タップダンスそのものを題材にした作品です。俳優・水谷豊さんが23歳の時から40年間アイデアと共に、監督と主演を務めています。
主人公の渡真二郎は天才タップダンサーとして活躍していましたが、過去に大けがを負い、ダンサーとしての生命を絶たれてしまいます。それ以来、酒におぼれる日々を過ごしますが、あるきっかけで様々な事情を抱えた若いダンサーたちのオーディションを審査をすることに。徐々に若い彼らにタップダンスへの想いを託すために、指導者として動き出します。タップダンサーとして活躍までに、厳しい試練やタップダンスの魅力、ダンサーの裏事情を描いた作品です。
1989年に公表された映画・TAPは、タップダンサーとして活躍したグレゴリー・ハインズ主演の作品です。主人公のマックスは、天才タップダンサーと呼ばれた父親のもとで、子どものころからタップダンスを仕込まれます。
当時の貧困により、天性の身軽さを悪用したのちに、刑務所へ入ることに。出所した彼は、下町にあるタップダンス教室で得意なダンスを披露したことがきっかけで、シンセサイザーと融合させた新スタイルの「タップトロ二クス」を生み出します。
こちらの動画では、マックスが見事なタップダンスを披露するシーンで、細かいリズムを踏み鳴らしています。
映画・White Nights(ホワイト・ナイツ)は、1980年代のアメリカやソ連(ロシア)などで勃発していた東西冷戦を代表するハリウッド映画です。
主人公のニコライは世界的にも有名なバレエダンサーで、当時のソ連からアメリカに亡命した過去を持ちます。ある日、ニコライを乗せた日本・東京行きの飛行機がソ連・シベリアに不時着してしまい、KGB(ソ連国家保安委員会)のチャイコ大佐に見つかります。
チャイコもまた、アフリカ系アメリカ人のタップダンサー。彼はソ連へ亡命したレイモンドとコンタクトを取り、ニコライと一緒にレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)に送ります。チャイコの策略で、ニコライを舞台で踊らせるためにレイモンドを見張り役に。その後は、ソ連からの脱出を計画していくうちに、ニコライとレイモンドの間には、固い友情が生まれ始めます。
ニコライとレイモンドはお互いに、人種の違いや芸術上、亡命者として正反対の状況でありながらも、息の合うタップダンスシーンは見どころです。こちらの動画でも、大胆に走ったり、飛んだりしながらリズムに合わせて踊っています。当時の歴史的背景とタップダンスの迫力が伝わる映画です。
映画・TAP DOGS(タップ・ドッグス)では、アダム・ガルシアが主演を務め、叩けば音が出るものを楽器にしてタップダンスが披露されています。具体的には、トイレの便器や工場の機械などを打楽器としてリズムを生みだす面白い作品です。
小さな街に住む主人公ショーンと兄ミッチェルは、父と同じ製鉄所で働きながら、趣味のタップダンスを踊る生活。密かにショーンには世界一のタップダンサーになりたい夢を追いかけていきます。
タップダンスには大きく2つのジャンルに分かれます。「リズムタップ」と呼ばれる楽器演奏に近いスタイルと、ミュージカルなど劇場で必要な華やかな動きとジャズダンスを取り入れた「シアタータップ」です。
リズムタップは、タップシューズでいかに細かく複雑なリズムを鳴らし続けるかを重視するため、上半身の動きは不要とされています。対して、シアタータップは、ステージ映えする上半身の動きと共に、タップダンスを踊るので難易度が高いスタイルです。
どちらも同じタップダンスですが、リズムタップの熟練者がシアタータップが上手く踊れないことは珍しくはありません。最近では、シアタータップよりもタップダンスの多様化に伴い、リズムタップの需要が高い傾向です。
ミュージカル映画が普及した20世紀は断然シアタータップが人気でしたが、いずれにしても基礎的な部分は同じなので、自分に合うスタイルで選ぶといいでしょう。
現代の日本でもタップダンスが人気で、前述した映画「座頭市」でも注目を浴びています。日本に初めてタップダンスが持ち込んだ人物は、アメリカ・ニューヨークでタップダンスを披露していたジョージ堀さんです。後の松竹歌劇団となる、松竹楽劇部の立ち上げがきっかけで、彼をスカウト。1931年に日本で最初のタップダンス教室が出来ました。
それから、戦前戦後のわずかな期間にタップダンスが流行。しかし、形式的なタップダンスだけが伝えられ、地味なダンスとして定着されていきました。1990年頃にようやくタップダンスの自由な表現に目を向ける人が増え、日本映画でも起用されるようになります。
今となっては、エンターテインメント界においてタップダンスはジャズダンスと肩を並べるくらい必要不可欠なダンスです。ダンスだけでなく、多様なリズム感が養われるため、重要視されています。
ダンスを始め、エンターテインメント界で活躍を目指すなら、タップダンスを身に着けておくと損することはありません。趣味としても、自分の足を楽器として演奏する感覚は魅力的です。
他のダンスでも同じですが、最初のうちは慣れるまでは努力しなければなりません。ジャズダンスやストリートダンス、クラシックバレエなどすべてのダンスにおいて上手くなるためには、日々の練習が必要です。
次は実際に、タップダンスの動画を用いて、真似しながら踊ってみましょう。
今回、紹介するタップダンスは以下の3種類です。
現代のタップダンスでは、リズムタップが主流です。他の音楽と調和しやすいため、ジャズやファンクなどジャンルが異なる曲調でも合わせられます。
タップダンス教室でも、ほとんどはリズムタップから入ることが多く、表現の自由度の高さでバリエーションが広がるダンスです。リズムタップは、自分の足を楽器として演奏するスタイルなので、自由に自己表現をしたい人におすすめ。
上半身の動きには指定がないことも特徴の1つです。シアタータップの場合は、作品のストーリー性を盛り込んでいるため、より複雑になります。初心者の人は、リズムタップから入るといいでしょう。
20世紀のミュージカル映画で人気を集めたシアタータップは、複雑なタップに上半身の手振りが付くため、難易度が高めのタップダンスです。バレエやジャズダンスの素養がある人がシアタータップを踊るとかなり魅力的に。
リズムタップに慣れているダンサーがシアタータップを踊ろうとしても上手く踊れないことが多いのが現実です。シアタータップはミュージカルで起用されているだけに、音楽そのものにもセリフや感情の流れが入り混じっているので、当然ダンサーもその世界観に入ります。体全体を使って観客にも伝わるような演技をするので、かなり複雑です。
タップダンスの新スタイルとして注目されているファンクタップ。ファンクタップでは、その名の通りファンク音楽に合わせて踊るタップダンスで、ストリートダンサーのような服装で激しく踊り、ファンク音楽に特化しています。
若い世代にタップダンスをわかりやすいように表現されたスタイルともいわれています。こちらの動画では、ファンク音楽に乗りながらタップと歌も披露。リズムタップやシアタータップとは全く別物とはいえども、次世代のスタイルとして変化を続けています。
本記事では、タップダンスの歴史の始まりから、実際に起用された映画まで紹介しました。他のダンスと同様にタップダンスにも歴史的背景があり、その起源がアフリカとヨーロッパで、当時の社会に対する自己表現の手段として知られるように。
また、これからタップダンスを始める人は、リズムタップとシアタータップの違いを知った上で、自分に合うスタイルを決めるといいでしょう。リズムタップで様々な音楽に調和するか、シアタータップで作品の世界観に入り込むか。または、ファンクタップのような新スタイルを目指すのかは、タップダンスを続けるなかで見えてきます。