ヴォーギングとは?ボールカルチャーの歴史とLGBTQ+との関係性

ヴォーギングとは?

ヴォーギングは、ヴォーグ、ヴォーグダンスとも呼ばれています。今や世界中で有名なファッション誌「VOGUE」が由来です。「VOGUE」は英語で、流行・人気という意味もあります。人種差別が根強いなかで、クラブダンスやストリートダンス文化が生まれ始めた1960年代のアメリカが発祥です。

また、アフリカ系、ラテン系のLGBTコミュニティで、ヴォーギングが踊られていたことで知られています。

ヴォーギングには、以下の3つのジャンルと特徴が存在します。

  1. Old Way (オールド・ウェイ)⇒エジプトの神話のような優雅さが特徴
  2. New Way (ニュー・ウェイ)⇒手首のねじれなど幾何学的な動きが特徴
  3. Vogue Fem (ヴォーグ・フェム)⇒現代のダンススキルと女性らしさを誇張した動きが特徴

いずれも、他のジャンルでは見られない独特なダンススタイルです。他のダンスとは大きく異なる点が、優美なポーズを連続させた動きと、ファッションモデルのようにランウェイで踊ることです。ファッションモデルのポーズが由来で、ポージングを一定間隔で連続させるイメージのダンスになります。

具体的には、顔に手を添えたり、頭の後ろから手を回すポーズを、一定間隔で繰り返しながら踊るダンスです。

ランウェイの周りには、観客と審査員で取り囲み、ファッション対決の盛り上がりの具合で勝敗を決めます。

当時は、LGBTコミュニティが定期的に行っていた「Ball(ボール)」と呼ばれるダンスパーティーが始まりで、のちにボールカルチャーと名付けられるようになりました。

ヴォーギングの起源

ストリートダンスやヒップホップカルチャーが生まれた1960年代に、ボールカルチャーと呼ばれるLGBTコミュニティが流行したことで、さらにヴォーギングの認知が加速しました。ダンススタイルは、1930年代の社交ダンスに由来があります。当時はパフォーマンスと呼ばれていましたが、現代のダンススタイルとは複雑で、あまり知られていませんでした。

ヴォーギングは1970年代に、男性ドラッグパフォーマー(女装して派手にジェンダーを誇張する人)が、音楽を聴きながらファッション誌「VOGUE」を見ていたときに、音楽に合わせてポーズをとるダンスを思いつきます。実際に、彼がクラブで踊ると、一気に注目の的に。そのダンスを、ヴォーギングと名付けました。

それから10年の間に、ヴォーギングの動きに手やターンを加え、ジャンルの1つであるOldway(オールドウェイ)、またはPop Dip and Spin(ポップ・ディップ・アンド・スピン)が生まれます。

のちに、アメリカの都市部に集まるアフリカ系、ラテン系のLGBTたちが「ボール・ルーム」と呼ばれるヴォーギングのコンテストと、クラブで踊られるように。「ボール・ルーム」とは、社交ダンスの場という意味を持ちます。参加者は、ハウスと呼ばれるグループに所属しながら、団体で競い合いました。

1980年代には、ゲイ・クラブで広まり、1990年には歌手マドンナの「VOGUE」により、全世界に認知され始めます。さらに、翌年の1991年には、映画「パリ、夜は眠らない」が公開されたことから、親しまれるようになりました。

日本にもヴォーギングが到来

ファッション雑誌「VOGUE」や歌手マドンナの「VOGUE」などで世界中にヴォーギングが知られるようになり、日本人アーティストのなかにも動きを取り入れたことで話題になりました。

こちらの動画で、シンガーソングライターの岡村靖幸の「LIVE 家庭教師'91」で、ヴォーギングを踊るダンサーにも注目してみてください。

近年の日本では、ヴォーギングを知っている人があまりいないですが、欧米ではヴォーギングのダンスバトルで盛り上がりを見せています。また、LGBTQ+の間では再び注目を集めているようです。

ボールカルチャーとは?

ヴォーギングは、1960年代に流行したボール・カルチャーが発祥です。ボール・カルチャーとは、当時のアフリカ系、ラテン系アメリカ人によるLGBTコミュニティの中で、定期的に開催されていたBall(ボール)と呼ばれるダンスパーティーの文化を指します。Ball(ボール)には、社交ダンスの場や舞踏会という意味を持ち、まさにLGBTたちのダンスの場として活用されていました。

もともとボールはヴォーギングが生まれる前に、LGBTたちが、自慢の衣装を着こなしながら踊り、お互いのファッション対決をバトルにしたダンスパーティーです。ランウェイで「見せる」ことから「魅せる」に代わってから、ヴォーギングとして認知されるようになりました。

ダンスパーティーの参加者は、それぞれハウスと呼ばれる団体に所属しながら、ダンスのテクニックを伝授されます。ハウスは数多く存在していたため、ボールの対決において派閥がありました。特に、「House of Xtravaganza (ハウス・オブ・エクストラヴァガンザ)」や「House of Ninja(ハウス・オブ・ニンジャ)」がボール・カルチャーのなかではよく知られているハウスです。

ボールの参加者のほとんどがLGBTだったことから、差別や家庭から勘当された経験を持つため、第二の居場所として機能されていました。ボール・カルチャーは、当時のLGBTを受け入れるコミュニティともいえます。

マドンナ「Vogue」でヴォーギングが広まる

アメリカの歌手マドンナが1990年に発表した「VOGUE」は、名前のとおりにヴォーギングの動きを曲中に披露されており、世界中に知れわたるようになります。そのため、ヴォーギングと聞くと、マドンナが始めたイメージする人が多いでしょう。

ヴォーギングの存在を世界中に広めた起爆剤として、マドンナの「VOGUE」が位置付けられています。実際に、ミュージックビデオやライブ映像でも、ヴォーギングをメインにダンスしているため、勘違いするかもしれません。

最近では、世界中のアーティストのダンスにヴォーギングの要素が取り入れられています。日本では、東京ゲゲゲイがヴォーギングの動きを取り入れていることで有名なので、この機会に見てみましょう。

ヴォーギングとLGBTQ+の関係性

最近では、全世界で自らLGBTとカミングアウトする人が多くなり、日本でもSNSやメディアでようやく認知され始めているところです。さらに、LGBTQ+という言葉が生まれています。

しかしながら、LGBTQ+の人たちを異端視する国も未だに存在します。街中で、日常的にクラクションを鳴らされ、罵倒されることも。仕事のために乗る、通勤電車では暴力の対象になるので、安心して暮らせません。

LGBTQ+の権利が脅かされている国では、彼らにとってヴォーギングは、自己表現が可能な場所として機能しています。

LGBTQ+は、単語の頭文字をとった言葉で、それぞれ以下のとおりです。

Lesbian(レズビアン)

女性同性愛者、つまり、女性が女性を好きになる人。

Gay(ゲイ)

男性同性愛者、つまり、男性が男性を好きになる人。

Bisexual(バイセクシュアル)

性別を問わずに、女性も男性も好きになる人。

Transgender(トランスジェンダー)

出生時の性自認が異なる人。性自認が男性もしくは、女性に分けられないXジェンダーも含む。

Questioning/Queer(クエスチョニング/クィア)
  • クエスチョニングは、自らの性について「わからない」「迷っている」「決めたくない」人。
  • クィアは、どれにも当てはまらない少数派を包括する言葉。

+(プラス)

性には多様なあり方が存在することを指すために、プラスを付け加えている。

ヴォーギングのダンスを紹介!

1960年代から歴史のあるヴォーギングには、大きく分けて3つのジャンルがあります。LGBTQ+の居場所を求めて、世界各国では、自己表現の場として披露されているダンスです。 

今回は、Vogue Femme(ヴォーグ・フェム)を細分化して、以下の4つを紹介します。

  • Old way(オールド・ウェイ)
  • New way(ニュー・ウェイ)
  • Vogue Femme Dramatics(ヴォーグ・フェム・ドラマチックス)
  • Vogue Femme Soft and Cunt(ヴォーグ・フェム・ソフト・アンド・カント)

今まで、ヴォーギングについて知らなかったという人も、それぞれのジャンルの参考動画を用意したので、見てみましょう。

Old way(オールド・ウェイ)

Old way(オールド・ウェイ)は、Pop Dip and Spin(ポップ・ディップ・アンド・スピン)とも呼ばれています。オールド・ウェイは、左右対称・精度の高さ・上品で優美な動きが特徴です。

ヴォーギングの初期のダンススタイルなので、スローテンポの曲に合わせて踊ることが多く、シンプルなポージングを決めています。複雑な振り付けがないので、初心者の人にはおすすめのジャンルです。

動画のダンサーたちの動きを見てみると、1つ1つの動作でポーズを決めるかのように、わかりやすく振り付けが構成されています。

New way(ニュー・ウェイ)

New way(ニュー・ウェイ)は、幾何学的に柔軟性のある動きが特徴です。ニュー・ウェイが生まれた1980年代に、すでにヴォーギングを始めた世代と、新たに参入した世代とのダンスバトルがきっかけで、ニュー・ウェイと呼ばれるようになりました。

ニュー・ウェイでは、身体の柔らかさを活かして、開脚や複雑なポージングで新しいヴォーギングを作り上げています。シンプルに1つ1つ動作を決めていたオールド・ウェイと比較すると、次の動作もなめらかであることも違いの一つです。

Vogue Femme Dramatics(ヴォーグ・フェム・ドラマチックス)

1995年代に生まれたVogue Femme(ヴォーグ・フェム)は、今までのオールド・ウェイとニュー・ウェイのダンススタイルとは異なり、女性らしさを表現しています。Femme(フェム)には、振る舞いや服装が女性っぽいレズビアンとゲイの意味があり、Vogue Femme Dramatics(ヴォーグ・フェム・ドラマチックス)と、Vogue Femme Soft and Cunt(ヴォーグ・フェム・ソフト・アンド・カント)2種類のテーマを持つダンスです。

激しい動作で女性らしさを表現するヴォーグ・フェム・ドラマチックスは、アクロバティックに近い動きが特徴で、そのなかで女性らしさを押し出しています。特に、床でポージングするDip(ディップ)が魅せどころです。

Vogue Femme Soft and Cunt(ヴォーグ・フェム・ソフト・アンド・カント)

Vogue Femme(ヴォーグ・フェム)の2つ目のダンススタイルである、Vogue Femme Soft and Cunt(ヴォーグ フェム ソフト アンド カント)は、なめらかに女性らしさを表現しています。こちらも、床でポーズを決めるDip(ディップ)と、歩き方や手の動きの女性らしさが特徴です。

先ほど紹介した、激しい動作のVogue Femme Dramatics(ヴォーグ・フェム・ドラマチックス)とは対照的に、なめらかさが前面に押し出しています。

ヴォーギングを題材にした名作映画「Paris Is Burning(パリ、夜は眠らない)」

ヴォーギングを世界中に広めた歌手マドンナの次に、LGBTを題材にした映画「パリ、夜は眠らない (Paris Is Burning)」が公開されたことにより、ヴォーギングが身近な存在になりました。こちらは、ドキュメンタリー映画で、1980年代に生きるLGBTがリアルに生きづらい社会について描かれています。

当時は、エイズが問題視されたこともあり、LGBTコミュニティに対する差別が激しい時代のなかで、ボール・カルチャーは彼らにとって生きがいになっていました。ボールのなかで、ヴォーギングで有名になることが、LGBTと有色人種があるがゆえに、彼らにとって唯一の成功です。

こちらの映画では、LGBTで悩み苦しむ彼らの人生を切り取った作品で、世界的に高評価を得ているので、見る価値があります。

まとめ

今回は、現代ではLGBTQ+と呼ばれる人たちが作り上げた歴史からヴォーギングについて紹介しましたが、まだまだ全世界でLGBTQ+が肯定されているわけではありません。未だに、その国で根強く残っている文化が、彼らに対して異端者として扱うことで居場所をなくそうとしています。

しかし、彼らも同じ人間です。、自己表現の自由の権利が与えられているのにも関わらず、彼らに対する理解ができない人は心のない言葉を浴びせたりするので、認知が広まった現代でも生きづらさを感じている人もいます。 

だからこそ、ヴォーギングは必要不可欠で、価値のあるダンスです。この機会に、ヴォーギングとLGBTQ+の理解を少しでもあれば、彼らにとって生きやすい世界になると思います。

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